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腕を磨いて 時を待て 大地康雄(俳優) 厳しい役者の世界に自ら飛び込み、 約40年にわたってその第一線で活躍し続けている 自ら企画・主演を務めた映画『じんじん』が 「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013」 で大賞を受賞するなど、 その圧倒的な演技力には定評があります。 ところが、そんな大地氏も 若き頃は十数年間もの 売れない苦悩の日々が続きました。 「おまえ、俳優になるんだったら一流を目指せ。 その覚悟がなければ明日から来なくていい」 師匠である名優・伊藤雄之助の教えを胸に 精進を積み重ねたという修業時代。 30歳の時、再びチャンスが訪れた。 それは世間を震撼させた 深川通り魔殺人事件の実録ドラマ、 殺人犯・川俣軍司役。 この主役がメジャーの俳優では なかなか決まらず、 最後のピンチヒッターで私が呼ばれた。 なんと千野皓司監督が4年前の 木下監督作品(自身デビュー作)を見ていて、 私が演じた犯人役をしっかりと覚えていたのである。 そのおかげで無名での主役デビューが決まった。 これが高視聴率を記録し、脚光を浴びた。 私の演技があまりにもリアルだったために、 「本人を刑務所から出して撮ったのか」 という葉書まで寄せられるほどだった。 これでやっと俳優だけで飯が食える。 当初はそう信じて疑わなかったのだが、 そこから私は本当の人生の挫折を味わうことになる。 というのも、殺人鬼役のイメージが浸透し過ぎて、 周囲から「大地康雄は本当に危ないやつだ」 というレッテルを貼られてしまったのだ。 その後もたまに来るのは悪役のオファーばかり。 アルバイト先でも、飲みに行っても 周りから避けられる。 街を歩いていると、 よく警察官から職務尋問を受けた。 ある時は、実際にあった殺人事件の犯人と間違われ、 署に連行されたこともあった。 頑張ってもダメなのか。 この世界で生きるのは簡単じゃない……。 一度実績を出し、顔も多少売れただけに、 どん底に突き落とされた私の心は すっかり荒んでしまった。 そのような状態が3年ほど続いていたある日。 ふと伊藤先生の教えが甦ってきた。 「人間の弱さ、愚かさ、悲しさ、醜さを 全部表現できるのが一流」 ああ、そうか。 俳優というのは順風満帆な人間を演じるより、 挫折や裏切りといった辛い体験を演じることのほうが多い。 だから、いま自分が直面している体験をものにすれば、 必ず将来に生かせるはず。 これも俳優修業の一つだ。 伊藤先生の言葉の真意は そういうことではないかと気づかされた。 いつかまたチャンスが来るだろう。 そう信じて、演技の勉強だけはやめずに続けていった。 捨てる神あれば拾う神ありというのは まさに至言だと思う。 ある日突然、前の事務所から 「伊丹十三さんが会いたがっている」と 電話が掛かってきた。 当時、伊丹監督は『マルサの女』の制作中だったが、 重要な役の俳優が急遽参加できなくなり、 ピンチヒッターを探していた。 その時、伊丹監督が「良い俳優はいないのか」と たまたまテレビをつけたところに、 『深川通り魔殺人事件』が再放送されていたのだ。 それをご覧になって、 「彼をマルサ役に」ということになったのである。 私はこんな神がかり的なことがあるのかと 驚きを隠せなかったが、 結果としてこの『マルサの女』がきっかけで、 俳優として一本立ちすることができた。 1987年、35歳の時だった。 「腕を磨いて、時を待て」 これは売れなかった時期に 伊藤先生からいただいた言葉である。 どんな人間にもチャンスは平等にやってくる。 しかし、そのチャンスを掴めるかどうかは、 普段の努力次第。 サボっている人間は チャンスが来ても逃してしまう。 私にとって木下監督や千野監督、伊丹監督が そうであったように、 必死の努力は絶対どこかで誰かが見ているものである。 |
2014.02.24 |
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