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苦悩の中で掴み取った『論語』の教え 渡部昇一(上智大学名誉教授) 専門の英語学のみならず 歴史、古典、修養、時事問題など あらゆるジャンルに精通し、“現代の碩学”と称される 上智大学名誉教授・渡部昇一氏。 84歳のいまなお『論語』を心の支えに 自分を磨き続けているといいます。 渡部 私も好きな『論語』の言葉を挙げれば、切りがありませんが、 人生の折々に拳々服膺してきた章句をいくつか申し上げますと、 例えば、次の言葉があります。 子曰わく、弟子入りては則ち孝、謹みて信、 汎く衆を愛して仁に親しみ、行いて餘力あれば、則ち以て文を学べ。 これは私が学生の頃、絶えず頭から離れなかった章句です。 というのも、私が大学1年生の夏、郷里の親父が失業しましてね。 私は自分の行く末について随分と悩みました。 私は末っ子ですが兄が亡くなっていて、 あとは姉だけですから家を継がなくてはいけない。 しかも、孔子は、 「親と一緒に家にいる時は孝を尽くし、 親を養って余力があるならば学べ」 と教えているわけですから、 自分も大好きな学問を諦め、 仕事に就いて親を養うべきなのだろうか、 と悶々としたんです。 伊與田 いまとは違って親孝行がとても 大事にされた時代でしたからね。 渡部 それで私は一つの覚悟をするんです。 いまは親は養えないけれども、 親には一切世話にならないで学問を続けよう、と。 手前味噌で恐縮ですが、それでも私は随分親を助けました。 大学院に進んだら兼任講師として女子高で教えましたから、 その頃から毎月仕送りをして親を養い始めたんです。 山形の実家は田舎なので家はあるし 食うに困ることはないんですが、 いまみたいに年金がない時代ですから、 とにかく家に現金がなかったんですね。 そのうちに私に留学の話が舞い込んできました。 講師のアルバイトを辞めると、 親に仕送りもできなくなります。 そこで女子高を経営する修道院に談判して、 後で返済することを条件に3年間、 私に代わって親に仕送りをしてもらったんです。 そして留学を終えた後、 給料の半分を払って6年かかって返済しました。 だから、この章句は私にとって実に実に重いものでした。 うっかり人には勧められないという思いがいまでもあります。 戦後はいまのようにアルバイトはありません。 そういう中で私も余力にもならない程度のお金で親を養い、 夏休み中の奨学金にも全く手をつけずに家に入れましたからね。 普通の学生は余力がなくても文を学ぶんです。 親を養いながら学問を両立させたのは、私の誇りでもあります。 |
2015.03.14 |
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