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逆境こそがおのれに与えられた宝と心得るのです 石川真理子(文筆家) 人生というのは思いがけない出来事に 満ちているものです。 祖母は「なぜこんなときにこんなことが」と 思わずにはいられない事態に見舞われても、 必ず「これこそが宝だと心得るように」と教えました。 もっとも、「あの苦労があったから今の自分がいるのだ」と 思えるのはずっと先のことです。 苦しみの渦中にいるときは、 とてもではありませんが「困難は宝もの」などと 思えるはずもありません。 すると祖母は 「それでは安楽なときにこれでもかと 歯を食いしばって上を目指すことができるかどうか、 苦労して乗り越えることができるかどうか考えてごらん」 と微笑むのでした。 「ぬくぬくと心地よい布団にくるまっているときに、 さあ努力しておのれを磨きなされといわれてできますか? ちょうどいい湯加減の温泉に浸かって 歯を食いしばることができますかのう」 言われてみればまさにその通りです。 すべて順調な時には努力の「ど」の字も 思い出すことはありません。 もし賢くも努力の大切さを思ったとしても、 逆境のさなかにいるときと同じ程度のがんばりを 発揮できるとは思えません。 考えれば考えるほど、 満たされているときに努力することは、 逆境の中で歯を食いしばることよりも難しいのです。 人は逆境を与えられるからこそ、 よりよい自分になることができ、 その精神を磨くことができるのです。 やはりつらくとも逆境は宝なのです。 昭和13年から15年にかけて、 家族にさまざまなことが起きました。 大東亜戦争が始まると間もなく長男が徴兵され、 騎兵隊として中国へ進軍しました。 幕末から昭和初期まで生きた祖母の母が、 その長い生涯の幕を下ろしました。 なんといっても祖母を悲しませたのは、 昭和15年に起きた、長女の夫の死でした。 当時、結核で亡くなる人が非常に多く、 闘病の甲斐なく妻と数え三歳の息子を遺して この世を去ったのです。 わずか4年にも満たない結婚生活のすえ、 妻とかわいい盛りの長男を残しての死は、 本人にとってもどれほど無念だったことでしょう。 それを歯を食いしばって耐えようとする 長女の姿もまたいたましく、 祖母は人知れず涙を流したのでした。 けれど長女の前ではみずからを励まして、 この逆境をともに受けとめて 乗り越えてみせようという姿勢を見せたのです。 「娘の逆境は母の逆境でもあります。 私はこの逆境を得がたい宝として受けとめようと思います。 負けるものかと心を定めようではありませぬか。 勇気を出して、なんの、という心意気で乗り越えるのです」 武士は逆境にも屈することのない、 高邁な精神の厳粛なる化身であり、 あらゆる学問の目指すところの体現者であった。 別言するなら鍛錬に次ぐ鍛錬によって完成された、 克己に生きる模範であったのである。 この克己心こそすべてのサムライに求められた 武士の教育の根幹だったといえる。 逆境こそがおのれを克服する力になる。 祖母はこの教えを子や孫に貫いたのです。 |
2015.01.06 |
地味にコツコツ 日本には200年以上続いている会社が 3000社あるといいます。 次代の激流に流されず、その時代その時代に深く根を張り、未来をひらいてきた。 社会教育家の田中真澄さんは 老舗に共通する精神を2つ挙げています。 1つは「地味にコツコツ泥臭く」 2つは「おれがおれがの“が”を捨てて、 おかげおかげの“げ”で生きる」 これは個人の運命も 全く同様だといえるでしょう。 一人ひとりの心のありようが その人の運命の消沈を決める――。 |
2015.01.05 |
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