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どん底で真に力となるもの 福島智(全盲ろうの東京大学教授) 3歳で右目を、9歳で左目を失明、 14歳で右耳を、18歳で遂に左耳の聴覚まで奪われ、 光と音を喪失した福島智さん。 絶望の淵に立たされながらも、 盲ろう者として初の大学進学を果たし、 世界で初めて常勤の大学教授にもなりました。 福島 私は障害者のことが綴られた本よりも、 むしろ北方先生の描かれるような ハードボイルドの世界に生きる力を得てきました。 私は9歳で目が見えなくなって、 さらに18歳で聞こえなくなって、 ヘレン・ケラーさんと同じ状態になりました。 テレビに例えたら、見えなくなるというのは、 画面を消して音だけ聞いてるという感じ。 聞こえなくなるというのは、 音を消して画面だけ見ている感じですが、 私の場合、スイッチを切って コンセントを抜いたのと同じ状態になって、 ものすごいどん底に落ち込んだわけです。 そういう時に何が力になるか。 障害者が頑張ったみたいな本があって、 もちろんそれも素晴らしいんですが、 案外力にならないんです。 私にはとてもそんな真似はできんよなぁと、 落ち込んだりすることもあるんですね。 北方 なるほど、そういうものなんですか。 福島 その一方で、例えば私が盲ろう者になって 間もない頃に読んだ大藪春彦さんの『蘇る金狼』は、 大企業を相手にたった一人で立ち向かっていく男の物語。 そういうほうが私は惹かれましたし、 エネルギーをもらったんです。 なぜかと考えたら、見えなくて聞こえないという 過酷な状況の中でどう生きるかというのは、 ある意味戦場にいるようなもので、 毎日がその作戦行動をするような感じなんです。 辛いけど頑張りましたといった甘いものじゃなくて、 もっと命ギリギリのところで生きる登場人物のほうが むしろ親近感が湧くし、エネルギーをもらえるんです。 ですから当時から大藪春彦さんとか、西村寿行さん、 勝目梓さん、船戸与一さん、大沢在昌さん、馳星周さんといった 一連のハードボイルド作品にずっと親しんできたんです。 北方 いま挙げていただいた方々とは 私も親しくしているんですが、 彼らがどんなふうに小説を書いているか 少しお話ししましょうか。 例えば船戸与一という作家は、 5年前に医者から余命宣告を受けたんです。 胸腺というところのがんが 肺に広がって、あと1年だと。 それで私にも、 「俺は1年経ったら死ぬ。 これまでありがとうな」 と挨拶に来てくれたんです。 ところが幸いにして1年生き延びた。 よかったなと思っていたら2年生き延び、3年生き延びた。 いま5年目です。その間彼は何をやっていたかというと、 ずっと『満州国演義』という作品を書き続けていたんです。 大柄だった彼の体はどんどん小さくなっていくんですが、 それでも書き続けて、とうとうひと月くらい前に書き上げたんです。 そんな彼の姿を見ていると、 作家もやっぱり体を削りながら書いていることを 改めて実感させられますね。 そして小説の神様というのがいて、 本気で書こうとした小説は完結させてくれるんだと。 そんないろんなことを感じましたね。 福島 先生の作品からいただいたメッセージの一つに、 立ち続けるっていうことがありました。 先生のブラディ・ドール・シリーズに、 遠山という画家が出てきますよね。 彼は初老の男で、肉体的な力はあまりないけれども、 一人の女性を守ろうとして、 殴られても殴られてもフラフラになりながらも立ち続ける。 これなんかは、私の心の内の願望を 見事に描いていただいたようなシーンで、 この男のようにありたいと強く思いましたね。 自分の人生においても、とにかく立ち続けたい。 |
2015.01.27 |
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