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感謝を大事にやっていかんと成功せんと思うで 川越森雄(松下資料館顧問) “経営の神様”と謡われ、いまなお多くの人々を惹きつけてやまない パナソニック創業者・松下幸之助氏。 貧困、病弱、無学歴……と幾多の苦境を乗り越え、 一代で世界的企業を築き上げました。 私が家電の営業に憧れ、松下電器産業(現・パナソニック) に入社したのは、昭和44年のことでした。 ところが半年間の実習を終えると、 思いがけず京都のPHP研究所への出向を命じられました。 PHP研究所は、松下電器産業創業者の松下幸之助が 個人で出資して設立した会社で、 当時は1冊50円の雑誌『PHP』と 幸之助の著書『道をひらく』の販売のみを行っていました。 『PHP』は当初、通常の出版ルートである 取次で扱っていただけなかったため、 販売していただける書店を開拓して直接卸していました。 加えて、一家に1冊という普及目標の下、 200人近くの社員を全国12の分室に投入して営業を展開。 努力が実り、私が入社した年には ちょうど100万部を突破していました。 しかしながら私の心境は複雑でした。 家電の営業をするために入社したのに、 なぜ雑誌を売る仕事に就かなければならないのか……。 1週間の実習研修を終えると、 幸之助と私たち新入社員8名との懇談会が 設けられることになりました。 事前に同じ寮の先輩方から、 幸之助が大変厳しい人だと伝え聞いていたこともあり、 私たちは戦々兢々として懇談会に臨みました。 ところが、会場に現れた幸之助は こちらが拍子抜けするほど優しい笑顔。 厳しい経営者の顔とは違った、 若い社員への温かい眼差しに、 私たちの緊張は一瞬で解きほぐされました。 幸之助は、 「君らがPHPに来てくれたんやなぁ」 と、私たちの加入が殊の外嬉しい様子で、 『PHP』が日本中に広まったら 日本はきっと素晴らしい国になる、 一家に一冊普及するのが夢だから ぜひ君たちの力を貸してほしい、 と仕事の意義を語りつつ、 「感謝」の大切さを繰り返し説き聞かせてくれました。 「君らには、感謝ということを しっかり踏まえながら仕事に取り組んでほしいんや。 君らはわしと違って 学校もちゃんと出とるし体も元気や。 しかしこの感謝ということを大事にしながら やっていかんと、なかなか成功せんと思うで」 私はその後長らく幸之助に接してきましたが、 それは自身の心の根底に常に深い感謝の念があったからこそ 発せられた訓戒であったと実感しています。 |
2014.10.29 |
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