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現場力の鍛え方 “なぜを5回繰り返せ” 張富士夫(トヨタ自動車名誉会長) 日本の産業界をリードし、世界有数の一流企業へと成長したトヨタ自動車。 その歴史は、実現不可能と思われた夢への 挑戦の軌跡でした。 福地 張さんはお若い頃、どういう思いで 仕事に向き合っておられましたか。 張 私は学生時代に剣道ばかりであまり勉強を していなかったものですから、何事も経験と考えて、 人が嫌がる仕事でも進んで引き受けることを心掛けていました。 そうすると、どんどん自分のところに 仕事が集まってくるようになるんですね。 会社も急成長を遂げていましたから、 やることはいくらでもあって、非常にやりがいがありました。 入社してからずっと総務や生産管理の仕事を手掛けていたんですが、 7年くらい経って現場の改善部門に異動することになりました。 大野耐一さんという常務が 「あいつを入れろ」と言ったらしいんです。 福地 大野耐一さんといえば、 トヨタ生産方式を確立された有名な方ですね。 張 はい。事務屋の私がそういう人の下で 現場の改善などできるわけないと思いまして、 上司に断ってもらおうとしたんですが、 大野さんは「そんなことは関係ない」と 全然相手にしてくれなかったそうです。 結局それから15年、大野さんの下で仕事をしたわけですが、 いま考えると本当に掛け替えのない勉強をさせてもらったと感謝しています。 福地 大野さんの下での仕事はいかがでしたか。 張 あの時代の人というのは、 懇切丁寧に教えてくれませんからね。 「寝る間も惜しんで考えろ」 「必死になれば知恵は出る」 などと怒鳴られながら、 一所懸命自分で仕事を覚えるしかありませんでした。 そのうち、問題点を見つけるのは 事務屋も技術屋も関係ないことが分かってきました。 実際に直す時には専門家を呼んで やってもらえばいいわけですしね。 大野さんは随分怖がられていましたから、 周囲から「よくあんなところで我慢できますね」と言われたものです。 しかし大声で怒鳴られて羽目板に突き飛ばされる剣道に比べれば、 会社では怒鳴られるだけで、叩かれることも突き飛ばされることもないから、 大したことはないんです(笑)。 そんなことよりも、トヨタ生産方式とも称される 多品種少量生産のものづくりを確立した 偉大な人の傍で仕事ができるというのは、 何物にも替え難い貴重な機会でした。 大野さんがつくり上げられたのは、産業革命で欧米が確立した 大量高速生産方式以来の画期的なシステムであって、 ノーベル賞にも値する業績だと言われる学者の方もいらっしゃいます。 福地 日本が世界に誇る生産システムですね。 張 大野さんは豊田喜一郎さんの、 ジャスト・イン・タイムのものづくりを開発せよ、 3年でビッグ3に追い付き追い越せという号令を受け、 最初はこんな理屈に合わないバカなことをと総すかんを食らいながら、 歯を食いしばって己の信ずるところを一つひとつ積み上げてきたわけです。 その生き方がすごく心に響くんですね。 私はその背中を見ては、 自分も負けちゃいかんなと心を奮い立たせてきました。 福地 大野さんの言葉で特に印象に残っているものはありますか。 張 最初に教わった「なぜを5回繰り返せ」という言葉は、 私のビジネス人生を貫く指針となりました。 なぜこうなっているのかと常に疑問を持て。 しかし1回の「なぜ」だけでは中途半端になる。 なぜそうなったのかと5回繰り返せば本当の原因が分かるぞと。 例えば、油圧不足で部品が不良になった。 その理由はネジが緩んで油が漏れたためだとすると、 普通はネジを締めて終わりだと思うんですね。 ところが大野さんは決してそこで終わらずに、 なぜ緩んだんだと。 機械が振動しているからですと言うと、 なぜ機械が振動するのだと追求していくんです。 現象の裏には原因がある、 その原因の後ろに真因がある。 だから真因に辿り着くには最低5回くらいのなぜを 繰り返さなければならないというわけです。 これは私が社長になってからも、 うるさいくらいに繰り返してきました。 製造現場の人間ばかりでなく、全社員にそうやって ものを考える癖を身につけさせたいと考えたからです。 アメリカではトヨタの5Wは 全部「WHY?」だと言いました。 |
2014.09.04 |
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