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自分の心の三畳間 童門 冬二(作家) 20代の頃、2人の師とともに、私を支えてくれたのが書物だった。 いまもそうだが、当時から本に対する飢えが物凄くあり、無我夢中で本を読み漁っていた。 ところが、当時はお金がない上に、計画停電の世の中で、 夜8時になると電気が全部消えてしまう。 そこで私は仕事が終わると地元の祐天寺駅に向かった。 駅は終電まで電力の配給があるため、構内の電気がついている。 また、駅前の闇市には古本屋が一軒入っており、 そこの店主が勉強熱心な私に目をかけてくれ、様々な本を借りて読むことができた。 そうやって私は毎晩、電気が消えるまで読書に明け暮れていた。 中でも、一番大きな影響を受けたのが太宰治である。 まだ仕事や急な社会の変化に不信を抱きつつも何かを求めてやまなかった時、 たまたま手に取った太宰治の本を読んでいると、 「かれは人を喜ばせるのが、何よりも好きであった」 という僅か一行の言葉が目に飛び込んできた。 それ以来、私は太宰治に深く心酔するようになり、 この言葉はいまでも己を貫く信条となっている。 また、この頃読んだ本の中で、もう一つ印象深いのは フランスの思想家・モンテーニュの『エセー』という作品に出てくる、 「人間は誰でも自分の心の三畳間を持つべきだ」 という言葉である。人間は周りに邪魔されることなく、 たった一人になってじっと物事を考えることのできる場を持たなければならない、とモンテーニュは言う。 そういう意味では、私は読書をすることによって自分の三畳間というものを確立していったと言えるだろう。 それは小説家となったいまも変わらない。 |
2018/03/13 |
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