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勝利にひそむ運を引き寄せるには 井上眞一(桜花学園高等学校バスケットボール部監督) 高校女子バスケットボール界に 前人未到の記録を持つ伝説の名将がいます。 愛知県・桜花学園高等学校の井上眞一監督、67歳 守山中学校バスケ部を6連覇に導いた後、 1986年に桜花学園バスケ部監督に就任。 そこから積み上げてきた全国優勝記録は27年間でなんと54回。 指導のスタイルについてはすごく葛藤がありました。 私はプレーヤー時代、大学のバスケット部の しごきに耐えかねて挫折しているんですね。 で、途中でやめて同好会をつくったんですよ。 そんなことで卒論も、 「勝ち負けじゃなくて楽しんでやるのが 真のスポーツだ」 みたいなことを書きました。 ところが、指導者になったら やっぱり勝ちたくなるものだから、 選手に厳しく当たることもあったんですね。 一方では同好会時代の楽しんでやるというのも残っていると。 だから、そこはすごく矛盾をしていて……。 で、桜花の監督になった時に、 「中学で勝ったからって高校で簡単に勝てるわけないよ」 って他校の監督から言われていたので、 どういうチームが理想なんだろうと考えたんです。 その時思ったのは、中学生たちが憧れるような 明るい雰囲気のチームにしたいと。 そのためにまず上下関係は取っ払うべきだということで、 これを撤廃しました。 小川 ああ、選手間の上下関係をなくされた。 当時そういう方針でやっているところは 他になかったんじゃないですか。 井上 かもしれませんね。 厳しいところが多かったですから。 うちは全寮制なんですが、門限22時以外は ルールをすべてなくしました。 敬語もなければ、食堂の座席も決まっていない。 来た人から好きな席に座って食べる。 だから、1年生が先にバクバク食べている ってことが普通なんです。 体育会系によくありがちな上級生が先に食べて、 その後で下級生というのがないので、 よそから見るとなかなか不思議なチームかもしれません。 そうやって、 “コートの中ではよきライバル、 寮に帰れば家族のように仲良く過ごす” というチームづくりを徹底していきました。 すると、その年の夏のインターハイで 運よく優勝してしまったんです。 小川 初年度でいきなり!? 井上 その3年前から守山中の教え子たちを 毎年送っていたこともありますけど、 その時は本当に運がよかったんですよ。 というのも、春の選抜(1988年より冬開催)で優勝した 千葉の昭和学院高校といきなり初戦で当たってしまった。 で、やっぱり20点近く差をつけられて負けていたんです。 観客もこの試合はもう勝負がついたからって 帰り出していました。 すると、相手が主力を温存させて メンバーを交代したんですね。 ここからうちの新1年生たちが当たりに当たって、 スーッと追いついた。 で、慌てて向こうも主力を戻したんですけど、 うちの勢いが止まらずにそのまま逃げ切ったんです。 小川 第1シード相手に大金星をあげられた勢いで、 そのまま優勝を手にされたと。 井上 だから何と言うか、私は力だけでは勝負に勝てない。 やっぱり運がないとダメだと思うんです。 小川 先生はどうやったら試合の中で 運を引き寄せられると感じていますか。 井上 難しいですね。 ただ一つ言えることは、 練習でいかに完璧な準備ができるか、だと思います。 練習は試合のための準備ですから、 それがうまくできれば頂点に立てるんでしょうね。 小川 どんな練習をされているのか、ぜひ教えてください。 井上 うちは体育館が住宅街の中にポツンとあるので、 朝練習ができないんです。夜の練習も19時半まで。 それ以上やると、近所から「ボールの音がうるさい」って クレームが出てしまう。 だから、練習時間は3時間半しかないわけですね。 その限られた時間の中で勝てるチームにするためには、 頭と体が両方動かないといけない。 バスケットはアメリカ発祥のスポーツなので、 どうしても専門用語は英語になってきます。 だから、1年生は上級生に聞きながら、 とにかく頭を使って理論を覚えて、効率よく練習をする。 逆に言うと、私が大学時代にしごかれたような 無駄な練習は一切しない。 極端な話、1日2点取る練習を 300日やれば600点取れますよね。 だから、前の日と同じ練習は絶対しないように、 毎日変えるというのが私のやり方です。 |
2014.07.15 |
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