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大切な良薬 鈴木 秀子(文学博士) ある時、一人の母親が私の元にやってきました。 成績優秀だった息子さんが突然学校に 行かなくなったという相談です。 ひと通り話を聞き終えた私は、 「その子は本当に親孝行な子ですね。 お母さんに何かを気づかせようとしているのでしょう」 と伝えました。すると、母親は途端に険しい表情を浮かべ、 「私たちがこんなに辛い思いをしているのに親孝行な子なんて……」 と怒りながら帰ってしまいました。 その母親が再び訪ねてきたのは一年ほど経った時です。そして、 「あの時は怒ってしまいましたが、 親孝行の子だという意味がようやく分かりました」 としみじみと話し始めました。 母親は息子さんがなぜ学校に 行かなくなったのかを考えているうちに、 「子供の中に何か吹っ切れないものがあるに違いない。 もしかしたら、それは親に対する反発なのかもしれない」 ということに思い至りました。 父親と二人でよく話し合う中で、 お金さえあれば楽な生き方ができると考えたり、 世間的な目ばかりを気にしたりして生きてきたことが いつしか子供の心を傷つけてしまったことに気づいたといいます。 両親が 「息子は自分で時間の過ごし方を選んでいるのだから、 それを尊重することにしよう」 と考えるようになった頃から息子さんの性格が明るくなり、 親子で普通の日常会話ができるようになりました。そして最後には 「僕はお父さん、お母さんの子供に生まれてよかった」 という言葉を口にしたというのです。 これは両親にとって全く思ってもみなかったひと言でした。 「私たちはあの子が普通に学校に行っていたら、 決して分からなかった大きな喜びを体験することができました」 そう語る母親には明るい笑顔が戻っていました。 ジブランは「苦しみについて」という別の詩の中で、 このように綴っています。 苦しみは、そのほとんどが自ら選んだもの。 苦しみは、あなたのなかの医者が、 あなたのなかの病んだ自分を治すために出す苦い薬。 その医者を信じて、出された薬をなにも言わずに飲みなさい。 この両親も息子さんの不登校という人生のどん底の中で、 それが実は大切な良薬であることに気がついたのです。 |
2018.12.17 |
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