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縁と情 父・安岡正篤の教え 【安岡】 私の人生を振り返って父が望むような 生き方ができたかはまた別としても、 不思議な縁に導かれていまの私があることを しみじみと実感しているんです。 ご存じのように私の父は堀田家から 安岡家に養子に入りました。 安岡家のほうの私の祖父は高知から出てきて大蔵省に入り、 最後はタバコや米を取り扱う専売局に籍を置いていました。 その後、日通に入って名古屋支店、 仙台支店の支店長を務めた人なんです。 面白いことに私の兄も東大を出て大蔵省に入り、 専売局に一時いました。その後、私は父の勧めで 日通に入ったのですが、本社の広報部から 長野支店長になった時、兄もまた松本支店勤務になりました。 祖父と兄が同じ専売局に勤務し、私たち兄弟二人、 偶然にも長野勤務になるなんて、つくづく縁は不思議だと思いました。 【荒井】 本当ですね。 【安岡】 父からは縁の大切さとともに、 もう一つ「人間というものは情がなくては駄目だ」 ともしきりに言われておりました。 親子の情、友人との情、そういう情の世界の中で 人間は生活しなくてはいけない、と。 それで、これも私的な話になりますが、私が大学受験をする時、 父から「東北大学に進んだらどうだ」と言われたことがありましてね。 私は東北大学は選択肢として考えていなかったものですから、 その理由を父に聞いてみたら、安岡家の祖父が仙台で 独り暮らしをしているので、父はそれをいたく心配していたんですね。 結果的に私は東京の大学に進んだのですが、 この祖父というのが大酒飲みでしてね。 独りにしておけないというので父が 東京の我が家に引き取ることになりました。 我が家でも祖父は朝から酒を飲んでおりまして、 大学生の私に「大学でくだらん勉強をするよりも、 わしと話しているほうがよほど勉強になる」 と言って朝酒に付き合わせたりもしました(笑)。 ある日、朝一緒に酒を飲んでいた時、 祖父は暫くして朝風呂に入りました。 お祖父ちゃんがなかなか出てこないと 母に言われて風呂場に見に行きましたら、既に亡くなっていた。 しかも、体を全部洗い、髭も剃り、カミソリを前に置いていたんです。 脳溢血でしたけれども、医者からは「体を清める必要はありません。 すべて自分で清めておられます」と言われたのを覚えております。 いかにも祖父らしい最期でした。 父から「縁を大事にして祖父さんの跡を継げ」 と言われて日通に入ったわけですが、 私にとっては縁と情ということを教えられた大切な思い出です。 |
2019.01.25 |
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