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先賢の箴言 この頃の世の中も、好い面を見れば、 流石に驚嘆すべき事が決して少くない。 然し時々先賢の語録を読んでおると、 やはり深省させられることが多い。 モンテスキューの名著「法の精神」の中に、 堕落するのは決して若い世代に限らない。 若い世代が腐敗するのは、 すでに大人が腐敗している時世だからであると 指摘しておるのも切実である。 そもそも現代の文明というものが、 反省すればするほど過失が多い。 賢明な先哲のすでに指摘しておる通り、 東洋は多くその東洋性を失い、 西洋もその西洋性を失い、 それぞれ最も貴重なものを失ってしまった。 西洋の大部分の智識階級にとって、 無意味な雑書や、音楽の愛好、 大がかりな映画の見物など、 むしろ病癖になっておると云ってよい。 アルコールやモルヒネの中毒も ありふれた事実になっておる。 国民大衆が、もし数日新聞や テレヴィ・ラジオなどを失ったら、 麻薬中毒の患者と同様に 己の悪徳に支配されずに済むまい。 人間は案外苦痛に負けないことも出来るが、 快楽には実に弱い。 「多くの自由な時間を持つことのできる人間は 大抵悪いことを考えるものである」 とは賢人スピノザもその国家論に指摘しておる。 「信念の無い富める男は、 貞操を知らぬ貧しい女よりも 現代社会にとって危険である」 とは、皮肉の鋭いB・ショウの所見であるが、 世の利巧な人間の中に潜む愚劣ほど 恐ろしいものはないのである。 (G・ハウプトマン・展望) 現代は偉大な力を内に蔵しながら、 それをどう活用すべきかに昏迷している。 過去のいかなる時代よりも勝れた 文明を築きあげながら、その始末に苦悩している。 |
2018.10.30 |
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