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桃李ものいはざれども下おのづから蹊を成す 高井昌史(紀伊國屋書店社長) 出版業界を取り巻く環境が厳しさを増す中、ここ15年の間で店舗数を倍増させ、 国内外合わせて年商1000億円を超える ナショナルチェーン書店の紀伊國屋書店。 私が成蹊大学を卒業後、 紀伊國屋書店に入社したのは1971年。 当時から紀伊國屋書店は、書店販売に限らず、 外商や出版、さらにはホール運営など、 広範囲にわたる事業活動が大変魅力的で 大学生の就職先として人気の高い企業の一つでした。 私もご多分に洩れず、そのような紀伊國屋書店に惹かれて 入社試験を受けた一人だったというわけです。 以来、法人外商を担当する営業部に配属されたのを皮切りに、 新設される大学や公共図書館などに向けて 書籍や雑誌、設備などを販売する図書館営業、 また、大学図書館の蔵書目録のデータベース化を受託する情報製作部の立ち上げなど、 様々な取り組みに携わってきました。 しかし、その歩みは、IT化や国際化の進展、 電子書籍やインターネット上の商取引を専門とするアマゾンの登場、 若者の読書離れなど、出版業界を取り巻く環境が目まぐるしく変転する中で、 まさに逆境と新たな挑戦の連続だったと言えるでしょう。 そのような中で、常に私の心の支えとなってきた言葉があります。 それは、 「桃李(とうり)ものいはざれども 下(した)おのづから蹊(こみち)を成す」 という言葉です。 成蹊の名は、『史記』の作者・司馬遷が「李将軍列伝」において、 李廣の人物を讃えるために引用したことわざ 「桃李不言 下自成蹊」に由来しています。 桃や李はものを言うわけではないが、 美しい花を咲かせ、おいしい果実を実らせるため、 自然と人が集まり、そこに蹊ができる。 桃や李は人徳のある人のたとえで、 優れた人格を備えた人のまわりには、 その人を慕って自然と人が集まってくるという意味ですが、 私も遠く及ばないけれど、 いつかそのような人物になりたいと願い、 生きていきたいと思っていました。 その言葉の意味を身を以て示し、 私の人生に大きな影響を与えてくださった方がいます。 それは、『明治前期日本金融構造史』、『経済発展と金融』など 金融学の著作を残され、成蹊大学や東洋英和女学院大学で 学長などを歴任された故・朝倉孝吉先生です。 在学中から公私ともに大変お世話になり、 とりわけ先生の晩年に、自伝『蹊その二』の出版を仰せつかって、 そのお手伝いをさせていただいたのはよき思い出となっています。 初めて先生の東京・大塚にあるご自宅にお伺いした際のことも、 いまなお忘れることができません。 名門の家に生まれ、戦前のエリート教育を受け、 大学の学長まで務められた方であっただけに、 どんな豪邸に住んでいるのだろうかと、 恐る恐る訪問したのですが、 目に飛び込んできたのはごく普通のお住まいでした。 また、先生の人柄は、肩書の多さからも窺えました。 これは2006年に先生がお亡くなりになられた後のこと。 蔵書と遺品整理のお手伝いをさせていただいた際に、 部屋から履歴書に使う証明写真がどっさり見つかったのです。 確か生前にお聞きしたところによると、 先生は公益法人の理事だろうと、 ボランティア団体の役職だろうと、 頼まれたことはすべて引き受けていたといいます。 その数は実に数十に上り、評議員会や理事会が開かれる度に出席し、 事情で出席できない場合にも、委任状を出し、 きちんと議事録を読んでいました。 私も現在、十ぐらいの肩書を持っているとは思いますが、 とても先生には敵わない。 そのような先生の人柄を慕って、いつもご自宅には卒業生や関係者など、 多くの方々が訪れていたようです。 「桃李不言 下自成蹊」 2015.04.20 |
2015.04.20 |
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