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作家としての矜持 童門 冬二(作家) 中西 輝政(京都大学名誉教授) 【中西】 歴史小説の世界を開く上での 師はいらっしゃいましたか。 【童門】 心の師といえば 山本周五郎さんですね。 周五郎さんは直木賞を 辞退したことで有名ですが、 その言い草が 「魚屋で一軒、 ものすごく売れた店が あるからといって、 他の魚屋が集まって 祝賀会を開いてくれるのか」 というものでした。 作家は孤独なものであって、 メダカのように 群れるようではいけないと おっしゃりたかったのでしょう。 周五郎さんには 作家としての矜持を教わりました。 もう一つ、周五郎さんの作品には、 傷ついた人への愛の心が パラレルに行き渡っているんです。 『釣忍』という短編小説にある 「俺は自分の傷が痛いから、 他人の傷の痛さが分かるんだよ」 という主人公の台詞なんかは 忘れられないですね。 だから、僕は周五郎さんの全集は、 すべての出版社のものを持っています。 同業者の全集を すべて買い揃えたのは 周五郎さんだけです。 【中西】 なるほど。周五郎さんから 作家としての生き方を教えられた。 【童門】 僕は若い時、周五郎さんから 「御慶」と書かれたハガキを いただいたことがあるんです。 周五郎さんの担当編集者の息子が 友人にいたので 「どういう意味だろう」 と聞いてみたら、 「招待状だよ。 どこかでおまえの作品を 読んだのではないの?」 と言うので、 仕事場である横浜・間門の旅館を お訪ねしました。 |
2017.06.05 |
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