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青春 北方 謙三(作家) 福島 智(盲ろうの東京大学教授) 【北方】 体験というのは、たぶん小説を書く時の 10パーセントぐらいの核にはなっていると思います。 あとはその体験に、 いろんな願望や想像力が加わって 小説になっていくんだろうと思いますね。 ですから私の二十代の10年間というのは、 そういう肉体労働をしながら ひたすら小説を書き続けたわけですが、 その間のボツ原稿がどのくらいあるかというと、 四百字詰めの原稿用紙を積み上げて、 背丈を越えます。 【福島】 はぁ、ものすごい枚数だ! そういう不遇の時代があったから、 その後の創作のエネルギーに 繋がっていったんでしょうね。 【北方】 あの十年間はいったい 何だったのかとよく考えるんです。 そしてあれは青春だったと思います。 青春というのは意味のあることを 成し遂げることじゃないんです。 どれだけ馬鹿になれたか。 どれだけ純粋で一途になれたか。 それがあの背丈を越えるボツ原稿だとしたら、 捨てたもんじゃないと思いますね。 青春時代にすべてを完成させようと思っていると、 チマチマと小さくまとまった 生き方になってしまうだろうと思うんです。 けれども私は10年間馬鹿になって突っ走った。 転がっては突っ走り、転がっては突っ走り、 それの集積が背丈を越えるボツ原稿の山。 これはなかなかのものだと思うんですよ。 |
2016.01.04 |
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