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苦しみの先に本当の楽しさがある 坂本博士氏(声楽家) 「泣く子も黙る城多(きた)又兵衛」と言われるほど 指導は厳しかったのですが、 怒鳴り散らしたりするわけではなく、 近くにいるだけでピリッとさせられる威厳のある方でした。 それにどんなに怒っても、レッスンが終わる頃には 「博士君、この次もまた楽しみにしているよ」 とおっしゃるあたりは、 教育者ならではの言葉の力を感じました。 ところが大学三年の時に先生が深刻な顔をされて、 残念そうにこうおっしゃるんですよ。 教務課のトップとして忙しくなり、 もう教えることができなくなったと。 代わりに城多先生はドイツから招聘した リア・フォン・ヘッサート先生を紹介してくださいました。 僕は最初、女の先生と聞いて戸惑ったんですよ。 でも、ヘッサート先生は僕に 本当の音楽の素晴らしさと楽しさを教えてくれました。 こんなに音楽って楽しいのかと。 ――音楽の楽しさ、ですか。 それまで僕は城多先生の厳しい指導のもと、 音楽の「楽」が学ぶほうの「学」だけになっていたんです。 つまり「音学」ですね。 こうなるといつの間にか「音が苦」になっている。 いくら音楽学校に入ったからといっても、 ドレミファソラシドと音階のことばかり厳しく言われると、 誰だって音符恐怖症になってくるんですよ。 ところがヘッサート先生はそういう指導をしませんでした。 代わりに、例えば目の前に山があると想像して、 その山に向かって「山、山、山」と 日本語で音階を歌わせるんです。 そうやっていると、面白いことに音符恐怖症が影を潜め、 気持ちよく声を出せるようになりました。 まるで心の扉がスッと開くように。 音を楽しむ、つまり本当の意味での「音楽」になりましたね。 ――「音学」「音が苦」を経て、「音楽」になったと。 そうですね。「音学・音が苦・音楽」という三つの言葉は、 何の職業でも当てはまると思いますよ。 何をするにも必ず学ぶ苦しさがある。 でもその苦しみがあるからこそ、 その先に本当の楽しさを見つけることができるんです。 苦しいからとすぐに投げ出してしまうようでは、 とても大成などできません。 2015.07.06 |
2015.07.06 |
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