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国際交渉プロフェッショナルの人間学 島田久仁彦(国際ネゴシエーター) 念願の国連勤務がスタートし、 2週間目の金曜日。 この日、私は人生を決定づける人物との 出会いを果たすことになります。 同じ部署のIT担当の女性から 「将来国連で活躍したいのなら、 会っておいたほうがいい人がいる」 と言われ、夕食に誘われました。 そこに現れたのは、女性のご主人とその友人。 ともに国連事務次長、つまり国連のナンバー2の方でした。 そして、そのご主人の友人こそ、 後々私のメンターとなるセルジオ・デメロ氏だったのです。 「こんなカッコいい人がいるのか。俺もこうなりたい!」 私は一瞬にして虜になってしまいました。 彼は紛争調停界のスーパーマンと 称されていたほど類い稀な交渉力を持ち、 次の国連事務総長に最も近い人物と言われていました。 国連で働く人は皆、彼のことを「ミスター・デメロ」ではなく、 敬意と親しみを込めて「セルジオ」と呼んでいました。 私の知る限り、いまだかつて ファーストネームで呼ばれた国連幹部は、 彼を除いては1人もいません。 ゆえに、ここでも「セルジオ」と呼ばせていただくことにします。 国連のカリスマ的存在の2人との会食を終え、 翌週の月曜日の朝一番、 セルジオが私のもとにやってきました。 「おまえは非常に熱い男だ。 お互いに物凄く好きになるか、嫌いになるか、 どっちかだと思う。 俺と一緒に紛争調停や交渉の仕事をしてみないか」 私は二つ返事で引き受けました。 当時の私は上昇志向の塊であり、 何よりも「この人についていきたい」という思いが強くありました。 こうして私は紛争調停官としての第一歩を踏み出すことになったのです。 セルジオは交渉術を手取り足取り教えてはくれませんでした。 とにかく背中を見て学べ、というスタンス。 彼がどういう話し方をしているか、 どんなジェスチャーをしているか、 それに対する相手の反応はどうか。 目線はセルジオのほうを向いたまま、メモを取る。 そうやって私はセルジオを絶えず観察し、 一つでも多くのことを盗もうと心掛けていました。 その中で学んだことは数限りなくありますが、 最も印象深く刻まれているのが 彼の人柄であり、人に対する接し方です。 セルジオが長期の仕事を終え、 久々にオフィスに帰ってくると、 その日の午前中はまず仕事になりませんでした。 というのも、職員の多くが セルジオのもとにやってくるからです。 彼は常に明るく笑顔を振りまき、 誰に対しても分け隔てなく接していました。 そして、職員一人ひとりの顔と名前が一致しているのはもちろん、 「病気のお子さんは元気にしている?」 「最近二人目のお嬢さんが生まれたんだって? おめでとう」など、 その人に関するホットな情報が 必ず頭に入っていたのです。 交渉の現場においても、 彼が部屋に入るとパッと明るくなる。 血生臭い話も和やかな雰囲気で合意へと運んでいく。 そういう仕事上の絶妙な呼吸を持った人でした。 皆に同じ態度で接する。 いつも笑顔でいる。 一見当たり前とも思えるようなことを 徹底することで人望は生まれ、 周りの人が自然と力を貸してくれたり、 プラスアルファの仕事をしてくれたりする。 そのことをセルジオは身を以て教えてくれました。 これはどんな仕事にも当てはまることではないでしょうか。 |
2013.12.12 |
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