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忍術はよりよく生きるための手法 現代を生きる本物の忍者である、 甲賀伴党21代宗師家・川上仁一さん。 ――先代の教えでいまも大事にされていることはありますか。 (川上) 「忍術の忍は堪忍の忍」、もうそれに尽きます。 要するに、忍術とは忍び込む術ではなくて、じっと堪忍、我慢する術なんだと。 忍者の「忍」の字には、心臓の「心」の上に「刃」が載っています。 ]その字のとおり、刃を少しでも動かせば心臓が切れて死んでしまいますから、 押しも引きもなりません。 いま一息のところでじっと我慢する心構えこそ、 忍者に必要な「鉄壁の不動心」なんですね。 また、『秘伝書』では、 日の丸のような赤い円の中央に「忍」の一字を置いて、 忍術の極意を表しますが、丸はリングの輪、平和・調和の和、 異質なものが交わる「和える」にも通じます。 つまり、和を実現するには、できるだけ争わず、 お互いに忍耐して仲よくすることが大事だということです。 ですから、忍術の精神は、争いが絶えない、 いまの世界にぴったりなんですね。 何事も我慢ができないから争いになってしまう。 ――忍術の極意が忍耐、和の心だというのは意外に思えます。 (川上) 忍者は戦うイメージが強いですが、 それは誤解なんです。そこは一番伝えたい部分ですね。 そもそも忍術の起源は、日本独特の風土や精神性と関係しています。 日本人が、原始の狩猟生活から四季に根ざした 稲作を中心とする農耕定住生活へと移り変わっていく中で、 群れ、すなわちムラが形成されていきますが、 そうなると、当然自分の思っていることを我慢し、 皆と協調することが必然となっていきます。 また、繊細な四季の変化や、自然災害の過酷な環境の中では、 常に四方八方に目を配って、思案を巡らし、 物事に臨機応変に対応することが求められました。 その一方で、人間には争う本能もありますから、 近接するムラとムラとの間には様々な戦いがありました。 その時に、なるべく互いに傷つかず、 自分が優位に立つためには何が必要かというと、 相手の弱点などを探る情報収集能力、 談合をするなど最小限の力で相手を制する知恵、技術なんです。 そのように、和を貴ぶ精神性や争いを避けムラの平和を維持する知恵が、 日本人にずっと蓄積されていき、「総合生存技術」にまで高められたのが忍術なんですね。 ――忍術には日本人の精神性や生きる知恵が凝縮されていると。 〈川上〉 そのように捉えれば、忍術は、 私たちがよりよく生きるための手法として、現代にも生きてきます。 人間の感情を最大限利用する「七情五欲」も、 人間関係や仕事を円滑にするために有効です。 忍術書に「人の言葉に花を咲かせる伝」というのがありますが、 要するに人は叱ってはいけない、褒めないといけないのだと。 嫌なことを頼む時にも、「やっとけ!」と言うより、 「君がおって助かったよ」と頼むだけでだいぶ違ってきます。 |
2019.06.02 |
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