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登呂遺跡が日本人に残したもの 大塚 初重(考古学者) 戦後、夢を失いかけていた日本人に夢とロマンを与えてくれた 遺跡の大発掘がありました。 教科書にも必ず出てくる あの登呂遺跡です。 指示されたところを掘っていくと、 木の杭が次々と出てくるんですよ。 でも最初はまさかそれが 2,000年前の杭とは思わないわけだけど、 どうやら弥生人が遺した 住居の周りに打ち込んでいた木だ ということが分かってくる。 我われの先祖が、 静岡平野の一角で山から 伐り出してきた木を 打ち割って細かい杭にして、 それを住居の周りの壁に営々と 打ち込んでいたものを掘っているとね、 だんだん涙がこぼれてきた。 ──涙が。 日本は戦争に負けたんだけど、 遠い昔からこの地に 我われ日本人が住んでいて、 その跡をいま自分たちの手で 掘り出しているんだという感動は、 お金とか食べ物とかってことと関係なく、 心が綺麗に洗われるような思いでした。 ──遺跡の発掘が夢を 与えてくれたわけですね。 実際、登呂遺跡の発掘というのは 戦後日本における最初の大発掘でね。 昭和22年の7月13日に発掘が始まって、 翌月6日には皇太子殿下が 現場に来られているんですよ。 そうしたら皇太子殿下が 見に行かれたというので、 今度は代議士たちも 10何名で見学に来ましてね。 その後も歌人の佐佐木信綱先生とか 有名な作家さんをはじめ、 全国から見学者が次々と 発掘現場に訪れたんです。 ──それはすごいですね。 だからこんな遺跡、他にはないですよ。 そういう意味で登呂遺跡の発掘が 日本人の心に触れたというか、 敗戦国日本に生き甲斐を 与えたのではないかと いまでも思っているんです。 それに国民全体がこれから どうやって生きていけばいいのか という時期に、東京の各大学が合同して、 食い物も十分にない中で 学生たちがすきっ腹で懸命に 掘っているということが、随分と 国民に感動を与えたようですね。 |
2016.02.02 |
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