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妄語せざるより始まる 森 俊博(日本空手協会国際理事/師範) 空手道一筋に歩んでこられた森俊博さん。 若くして頂点に立った森さんを支えたもの 稽古でコテンパンにやられるからには、当然、 大会に出ても協会の先輩と当たれば負けてしまう。 どうすれば自分は勝てるのか──。 稽古こそ休まなかったものの、悩みに悩んだ苦しい日々が続いた。 そんな中ふと気づいたのは、稽古に対する自分の甘さだった。 稽古が厳しいゆえに、 最後までやり切れるよう力の出し方を調整していたのだ。 時を同じくして、中国北宋時代の学者・司馬温公と 門人・劉安世との問答を知ったのはまさに天佑であった。 「人間が一生涯守るべき言葉があるなら教えてもらいたい」 と問う門人に対して、司馬温公は 「それは誠である。誠の一字こそは、 終生守っても、一つも間違いない」と答えた。 誠に至る方法を劉安世が重ねて問うと、 師は「妄語(もうご)せざるより始まる」、 つまり嘘をつくなと教えている。 空手の世界において嘘をつかないとはどういうことか。 自ら導き出した答えは、自分の持っている力を出し切って、 技と自分とが一体になることだった。 そのためには稽古の仕方をガラッと変え、 最初からぶっ倒れる覚悟で稽古に臨むしかないと思い至る。 その日を境に以前とは全く異なる辛い日々が続いた。 自分の納得がいく稽古ができるか。すべてはその一点にかかっていた。 他人との勝負ではなく、自分との闘いだった。 自分の限界に挑戦する稽古を続ける中、 半年も経たないうちに体に変化が出てきた。 全身の筋肉が鍛えられ、スピードと力が身についていたのだ。 昭和50年に行われた第4回全日本空手道選手権大会において、 並み居る先輩方を降して初優勝できたのも、厳しい稽古の賜物であろう。 特に決勝戦では、ふとした瞬間に まばゆい光に包み込まれるという、不思議な体験もした。 相手のゆっくりとした動きに対して自然と体が反応し、 観客の歓声で我に返った時には既に私に軍配が上がっていたのだ。 |
2017.12.09 |
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