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      次代に輝く住まいを創る

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一語履歴WORD vol.055a

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父を助けて下さい 博多通りもん 医師からの宣告 (人という字...)
人を生かしているもの     長野安恒(声楽家)

これはいまになって分かることですが、
小学校六年で入院していた病院では、
治療ではなく、ただの実験台にされていました。

毎日毎日朝昼晩、ヨウ素剤を飲まされて、
基礎代謝と甲状腺へのヨウ素の集まり具合を測るだけでした。

私は消灯時間になるとトイレで必ず本を読んでいたのですが、
寝たら次の日、目が開かないんじゃないかと思って
夜寝るのが怖かったんです。
だから十二歳で、まだおねしょをしていました。

そうして一年が経った頃、
姉が東京・原宿の伊藤病院を紹介してくれて、
伊藤國彦先生に診てもらえれば治ると。

私は逃げるようにして入院先を後にし、
伊藤病院へ転がり込んだ。

そしてこの先生に診てもらったら治ると思った途端、
夜尿症がピタッと止まったんです。

人を生かしているものは肉体です。
医師は肉体の不具合を治してくれますが、
心のありようが物凄く大きく影響する。

絶望は死に至る病と言われますが、
実際にそのとおりなんです。

全くなんの希望もなかったところに一条の光が差した。
やがて手術は成功し、病気から解放されました。

そしてふっと振り返ると、地獄だと思っていた中に、
自分は多くの人に助けられて生きていたんだと気づいたんです。

入院中は小学五年生の食べ盛りで、
しかもお腹が空く病気ですから、
病院の食べ物だけじゃ到底足りないわけです。
お腹が空いてお腹が空いてしょうがない。

そんな中、昼三時頃になると、
いつもおやつをくれるおばさんがいたんです。

ただ本当に申し訳のないことに、
その方の名前も覚えていません。
病院の人だと思っていました。

けれど後になって、掃除に来ていたおばさんだと分かりました。

私は毎日その人を探し回っておやつをねだっていた。
いつも何かを用意していてくれましたよ。
ない時には「これでなんか買っておいで」と
お小遣いをくれたりしました。

いま思えば、そんな神様の使いのような人に
出会えていたんですね。

それから、先人たちが残してくれた言葉にも救われました。

石川啄木の歌に

「はづれまで一度ゆきたしと
  思ひゐし
 かの病院の長廊下かな。」

とありますが、病院の廊下って本当に長いんです。
なぜかと言えば、廊下の突き当たりから先へは、
病人は出ていくことができないから。
だからこの歌が身に染みて分かるんですよ。

他にも

「東海の小島の磯の白砂に
 われ泣きぬれて
 蟹とたはむる」。

私のいた病院は海辺の崖の上に建っていて、
砂浜へ下りていける道があった。
私は朝ご飯を食べると、逃げるようにそこへ行くわけです。
一日ボーッと海鳥などを見ながら、
そんな歌やこんな歌を胸に浮かべていました。
 
2013.08.07

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