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自分のプライドだけは失いたくなかった ミシュラン2つ星店として人気の 日本料理「銀座・小十」 店主の奥田透氏は高校時代に料理人を志されます。 しかし、その頃の奥田さんは工作が大の苦手で、 とても不器用だったそうです。 (奥田) 私は昭和44年、静岡県に生まれました。 高校1年生の夏休み前から勉強についていけなくなり、 居酒屋や魚市場でアルバイトをする中で、 料理人という仕事に憧れを抱き始めました。 「学歴はなくても、 料理人であれば努力が報われるのではないか」 と、無限の可能性を感じていったのです。 私は、どうせ入門するのなら静岡で一番厳しく、 一番評価されている店にしたいと思いました。 知り合いの板前さんたちからは 「この道は殴られて蹴られて大変だぞ」 「給料ももらえないぞ」と冗談半分に言われましたが、 「別に命を取られるわけではないだろう」 とあまり気に留めませんでした。 反対に中途半端な店に入門し、 楽な修業生活に甘んじることにこそ 嫌悪感を抱いていたのです。 念願の店に入門して始まった板前修業の厳しさは 予想通りでした。 6畳の部屋にある3つの2段ベッドの一空間が 唯一の自分の居場所だったことは衝撃で、 のっけから包丁すら満足に扱えない現実に直面しました。 私は小さい時から工作など物をつくることが大の苦手で、 料理人の道を選んだ理由の一つは、 そのコンプレックスを跳ね返すためでもありました。 入門したばかりの頃は、ちょうどタケノコのシーズン。 大量の花見弁当をつくるのに、 私もタケノコ切りに動員されました。 ところが、始めるや、すぐにバサッと指を切ってしまい、 絆創膏を貼って調理場に戻り、 また指を切るという繰り返し。 手の指や関節はいつも絆創膏だらけで 1つの指を18針縫ったこともあり、 いまこうして普通に動くのが奇跡です。 そういう状態が半年くらい続いたでしょうか。 私は自分が器用ではないと分かっていましたので、 1回でできなければ10回、 10回でできなければ100回、 100回でできなければ1000回やろうと心に決めてやり遂げました。 駄目な烙印を押されて、 自分のプライドだけは失いたくなかったのです。 |
2021.07.13 |
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