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仕事は追い掛けられるな、追い掛けろ 昭和を代表する染色の名匠といわれた森口華弘氏を父に持ち、 親子2代で人間国宝に認定された染色家の森口邦彦さん。 (中村) 森口さんも、華弘さんと長く一緒に仕事をされてきたんではないですか。 (森口) 私は父と約40年間、同じ仕事場でやってきたんですが、 最初の10年くらいは生活を気にすることなく、 自由に創作に取り組ませてくれたので、 すごくその時間は重要だったと思っています。 とはいえ、父は私の作品を本当に評価してくれているのかという疑いは 常に持っていました。おふくろは私の作品を いつもけちょんけちょんに貶してちっとも褒めてくれませんしね。 実は父に褒められたことも一度もないんです。 (中村) あぁ、一度もですか。 (森口) ただ、父のもとに入門して10年目頃、 単純な一本の線が着物を着た時に、 スパイラルのように体全体に巻きついて見える作品をつくったんですが、 その図案を半年も経たないうちに父が自分の作品に取り入れていたんですよ。 もちろん父の作品では、線は一本の梅の枝に、 上からだんだん花が咲いていくといったような 誰もが楽しめる素晴らしいもので、 私の作品は無愛想な一本の線だけの抽象的な構成でした。 それでも、そうやって真似をしてくれたということが 父の唯一の褒め言葉だったんではないかなと思いますし、 自分でも父の役に立てるんだと思えた瞬間でした。 これは本当に嬉しかったですね。 (中村) 素晴らしいお話です。 (森口) 父に直接「自分の真似をしたな」と、 そんな無礼なことは言えません。 でも中村さんがおっしゃったようにね、 私もやっぱり、父と子はお互いにライバルなんだと思います。 年に一度の大事な展覧会に出品する時にも、 うちは小さな仕事場で一緒にやっていましたから、 作品をつくり始めたのがお互いにすぐ分かるんです。 父の口癖は「仕事は追い掛けられるな、追い掛けろ」ということで、 要は、仕事は先に、先にしなさいと。 それである年に早めに展覧会の準備を取り掛かったら、 父に「もうつくり始めるのか?」と言われましてね、 父は私をライバル心で見ているんだなと思いました。 (中村) まぁ、そうはいっても、やっぱり父には勝てませんね。 (森口) ええ、勝てない。永久に勝てませんよ。 ただその頃ね、一度だけ「同じ山、美という山を登るのに、 私はあなたとは違ったルートを見つけたいものだ」 という思いは父に伝えたことはあります。 |
2021.06.19 |
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