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だから、あんたが一番可愛い 1971年創業、富山県・石川県を中心に、 冠婚葬祭事業で発展を続けるオークスグループ。 グループ創業者・奥野博さんの貴重な体験 (【室内設計会社の倒産から】徐々にしろ、 這い出すきっかけとなったものは何ですか?) 〈奥野〉 やはり母親の言葉ですね。父は私が幼いころに死んだのですが、 その33回忌法要の案内を受けたのは、奈落の底に沈んでいるときでした。 倒産後、実家には顔を出さずにいたのですが、法事では行かないわけにいかない。 行きました。案の定、しらじらとした空気が寄せてきました。 無理もありません。そこにいる兄弟や親族は、 私の頼みに応じて金を用立て、迷惑を被った人ばかりなのですから。 (針のむしろですね。) 〈奥野〉 視線に耐えて隅のほうで小さくなっていたのですが、 とうとう母のいる仏間に逃げ出してしまいました。 (そのとき、お母さんはおいくつでした?) 〈奥野〉 84歳です。 母が「いまどうしているのか」と聞くので、 「これから絶対失敗しないように、 なんで失敗したのか徹底的に考えているところなんだ」 と答えました。すると、母が言うのです。 「そんなこと、考えんでもわかる」 私は聞き返しました。 「何がわかるんだ」 「聞きたいか」 「聞きたい」 「なら、正座せっしゃい」 威厳に満ちた迫力のある声でした。 (84歳のお母さんが。) 〈奥野〉 「倒産したのは会社に愛情がなかったからだ」 と母は言います。 心外でした。自分のつくった会社です。 だれよりも愛情を持っていたつもりです。 母は言いました。 「あんたはみんなにお金を用立ててもらって、 やすやすと会社をつくった。 やすやすとできたものに愛情など持てるわけがない。 母親が子どもを産むには、死ぬほどの苦しみがある。 だから、子どもが可愛いのだ。あんたは逆子で、 私を一番苦しめた。だから、あんたが一番可愛い」 母の目に涙が溢れていました。 「あんたは逆子で、私を一番苦しめた。 だから、あんたが一番可愛い」 母の言葉が胸に響きました。 母は私の失態を自分のことのように引き受けて、 私に身を寄せて悩み苦しんでくれる。 愛情とはどういうものかが、痛いようにしみてきました。 このような愛情を私は会社に抱いていただろうか。 いやなこと、苦しいことはすべて人のせいにしていた 自分の姿が浮き彫りになってくるようでした。 「わかった。お袋、俺が悪かった」 私は両手をつきました。 ついた両手の間に涙がぽとぽととこぼれ落ちました。 涙を流すなんて、何年ぶりだったでしょうか。 あの涙は自分というものに気づかせてくれるきっかけでした。 |
2020.09.30 |
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