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上手は下手の手本、下手は上手の手本なり 人間国宝の狂言師・野村 萬さん。 その野村 萬さんが芸道一筋に歩む上で、 影響を受けた人物の一人が 画家・中川一政でした。 ─—中川一政といえば、日本洋画壇の重鎮だった方ですね。 はい。40年近く前のことになりますが、 日比谷の帝国ホテルで開かれた先生の 誕生パーティーにお招きいただく機会がございました。 石井好子さんがシャンソンを、私が狂言を披露しまして、 その時「お礼に何か差し上げたいが、 欲しいものはありますか」と聞かれるんです。 私は「先生が書かれた書をください」とお願いしました。 その以前に、お茶会の席にお招きいただいたことがあって、 そこに世阿弥の言葉をお書きになった 軸が掛かっていたのを覚えていましたから。 「上手は下手の手本、下手は上手の手本なり」 先生にいただいた書は一見すると、 小学生の字かなと思うものでしたが、 何とも味わいのある墨跡なんですね。 ある境地を抜けている。これを見ながら、 つくづく「人間が洒脱になるとは、 こういうことかな」と思ったものです。 ─—中川画伯の生き方を通して大切な芸能の心を教えられた。 それから平成元年、お住まいのあった神奈川県真鶴町に 町立中川一政美術館が開館した時も、 私は館内に設けられた茶室披きにご招待いただきました。 その招待状の文面がなかなかユニークで、 いまでもよく覚えております。 「かねてから考へてゐた茶会を試ることにしました。 (中略)ころばないやう おいで下さい」 最後の「ころばないやう」という部分に先生の飄逸、 洒脱なお人柄が出ていて思わず笑みがこぼれました。 よく狂言の芸の境地を軽妙洒脱という 言葉で表現したりしますが、 先生はその境地に至られていたのだと思います。 しかし、その境地は様々な葛藤や苦しみを 経た後に到達できるものです。 難しさや重さを通り抜けた先の軽さで あってこそ真に観客の心を打つんです。 |
2020.08.18 |
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