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私が生まれる前に 服部剛(詩人) 詩集『Familia』(誌遊会出版) 詩『私が生まれる前に』 私が生まれるより前に 戦地に赴き病んで帰って間もなく 若い妻と二人の子供を残して世を去った 祖父の無念の想いがあった 私が生まれるより前に 借家の外に浮かぶ月を見上げ 寝息を立てる子供達を女手一つで育てた 若き日の祖母の切なる祈りの夜があった 私が小学生の頃 嫁・姑の確執で家を出そうな夜も 二人の子供の寝顔を見ては じっと耐える母の姿があった 私が中学生の頃 会社が倒産し、この世の荒波に呑まれても 妻と二人の子供を守るために 泳ぎ続けた父の姿があった 私がこの世に生まれた日 窓から朝日の射す病室で ベッドで横たわる母に抱かれた私の傍らで覗き込む 幼い姉の歓びに躍るまなざしがあった 私がこの世に生まれた日 視界では見渡せない青空から 両手に溢れるほどそそがれていた 目には見えない光 私が生まれるより前に 無数の人生の物語があり どれほどの幸福と悲劇があったのか 私はこの道を歩む 「大いなる過去」から 吹いてくる風に、背中を押されながら 空から舞い降りてきた一通の手紙を懐(ふところ)に入れて 旅の途上で出逢う「もう一人の私」を 夢の旅路に探して |
2021.02.13 |
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