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悲しみ、苦しみのおかげで求める心が起きる 青山俊董 私は修行僧たちに「苦痛と苦悩は違う」とよく言っています。 体の痛みは確かに苦痛かもしれません。 しかし、そのことを通して気づくことが山ほどありますからね。 病院の廊下に立ちますと、 生老病死というものが目の前に展開している。 いまは福祉が行き届いていて、 元気な人しか見えなくなっていますが、 本当はこれではいけないんですね。 やがて自分も病に伏す時が来る、 老いて死ぬ時が来ると人生全体の姿が 展望できて人生の座標軸というものが分かれば、 いま、どう生きるべきかが自ずと見えてきます。 その意味でも病気になって 私は感謝することばかりでこざいました。 まさに「南無病気大菩薩」です。 ──苦しい体験も、自分の根を養う上での糧となる。 お釈迦様は「悲しみ、苦しみのおかげで求める心が起きる」 とおっしゃっておいでですが、 人間は苦しみや悲しみのおかげでアンテナが立つんです。 私のところには人生相談が山ほど来ますが、 まずは話を聞くんですね。徹底的に聞く。 そして私が気づくことがあれば、少しお話をします。 すると、大概の人は非常に明るい顔になって 喜んで帰って行かれるのですが、 その時に申し上げるんですね。 「その悲しみのおかげで、 あなたはここに来ることができた。 これはアンテナを立てなさいという 仏様からのプレゼントですよ」と。 もちろん、苦しみや悲しみがなくて 救われれば結構な話だけれども、 辛ければ辛いほど待ったなしに病院に行こうとする。 よき人生の師を求めようとする。 これは一つのチャンスなんですね。 ですから、悲しみや苦しみは仏様の慈悲の プレゼントとしてありがたく頂戴しておくことです。 そう考えれば、普段金儲けに向かってアンテナを立てているか、 道に向かってアンテナを立てているか、その差はとても大きい。 きちんとしたアンテナが立ってなきゃ、 人の言葉は耳に届きませんし、 いい出会いにも恵まれません。 いずれにしましても、あらゆることを 命の歩みとして取り組んでいく姿勢、 気に入ろうが気に入るまいが、 いまここを道場と思って一つひとつ姿勢を 正して全力投球することが、 人間の根を深めていくことになると思います。 |
2020/10/23 |
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