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なまの純粋さ 『平澤興 一日一言』 私は人間に一番尊いのは なまの純粋さであり、 濁りのない単純さであって、人間にとって、 これほど尊いものはなかろうと思うのです。 これはどの方面でも 超一流の人にはあるようです。 |
2018.06.29 |
彼を許します 鈴木秀子(文学博士) 鈴木秀子さんは、太宰治の『走れメロス』を 大人になって読み返すと、学生の頃には 分からなかった発見や感動があると言います。 私は『走れメロス』を改めて読みながら、 ある大きな武道具の会社を経営している 男性Kさんのことを思い出していました。 外国語に堪能なKさんは、武具を購入する 外国人のための通訳の仕事を経て独立。 持ち前の商才を発揮して事業を 拡大していきました。ある時、その会社に イタリア人の青年が訪ねてきて「働きたい」 と申し出ます。日本語が話せないのに、 武道を学びたい一心で来日した心意気に 感心したKさんは、青年を雇うことにしました。 Kさんは、青年をまるで家族のように 大切に教育し、青年もまた海外との コネを生かして実績を挙げ、 頼りになる社員に成長します。 ところが、6年ほど経ったある時、 会社宛に誤って届いた一通のメールを 見てKさんは愕然とします。青年が 上顧客と結託して会社を乗っ取ろうとする 内容だったからです。飼い犬に手を 噛まれるとはこのことです。 Kさんが青年を 問い詰めると「これはビジネスだ」と、 それまで一度も見せたことのない ふて腐れた態度で、そう答えました。 青年は自ら会社を去りましたが、 Kさんは燃え狂うような怒りが どうしても収まりません。一時は本気で 裁判も考えたと言います。 終日感謝の言葉を唱え続けることで知られる、 ある修行者と出会ったのは、そういう時でした。 修行者はKさんの話に最後まで耳を傾けた後、 ひと言「おめでとうございます」と言って 立ち去ります。Kさんは驚きました。 おめでたいどころか、最悪の 精神状態なのですから、無理もありません。 ところが、どういうわけか、帰る道すがら 「彼を許します、彼を許します」と唱えている 自分がいたというのです。しかも、それが 朝から晩まで続きます。怒りの感情が押し寄せて くることもありましたが、それでも、 まるで念仏のように一心に唱え続けました。 二週間が経った時、朝起きると、 気持ちがいつもと違います。怒りの感情が すっかり消えていたのです。晴れやかな 気持ちで外に出ると、あのイタリア人の 青年が玄関先にいて、深々と頭を下げて いるではありませんか。 Kさんは青年の後ろ姿を黙って見送りましたが、 冷静に考えてみると、会社が乗っ取られた わけでもなく、青年をとおして人を許す という大きな学びを得、人間として成長 できたことをしみじみと実感したそうです。 私には「彼を許します」と一心に唱え続けた Kさんの姿と、親友を助けるために無我夢中で 走り抜いたメロスの姿とが、どこか重なって 見えます。自分の弱さを受け入れた上で、 目の前の問題を乗り越えようとする時は、 その人にとって飛躍のチャンスでもあるのです。 |
2018.06.29 |
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