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      次代に輝く住まいを創る

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一語履歴WORD vol.483

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易経はなぜ帝王学であるのか
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「酒井先生、私に『般若心経』を説いてください。」
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『道』 482aあれを見よ 深山の桜咲きにけり
一語履歴 vol.481
今 目の前に存在する 481a顔は心の窓
「酒井先生、私に『般若心経』を説いてください。」
              酒井大岳(曹洞宗長徳寺住職)

大学を出てしばらくして群馬に戻った私は、
住職である父の手伝いをするとともに、
たまたま空きがあった県立女子校の書道講師を
務めることになりました。

私が奉職間もない頃、
小林文瑞という大先輩の先生がいました。

小林先生は私のように僧籍を持ち、
西田哲学や仏教思想に精通していました。

190センチ近い大柄な方でしたが、
一緒に食事をしていた時にこうおっしゃるのです。

「酒井先生、『般若心経』というお経があるでしょう。
きょうは一つ私にそれを説いてください」

「それは無理ですよ。読めと言われればすぐに読めますが、
とても説くことなんか」
 
すると一瞬先生の表情が変わり、
「馬鹿者!」と頭ごなしに
私を怒鳴られるではないですか。

「あなたはきょう、私の隣の教室で授業をやっていたね。
1人休んでいた子がいたでしょう。名前はなんと言った?」

「山田悦子(仮名)です。窓際の前から3番目の子です」

「あなたは彼女がなんで休んでいるか知っていますか」

「いいえ、別に担任に聞いてみたこともないし、
風邪でもひいたんだろうかと……」
 
その言葉が終わらないうちに、再び雷が落ちました。

「馬鹿者! 生徒が1人休んでいたら
担任であろうが副担任であろうがそういうものは関係ない。
ひょっとしたら事故かもしれない。
大病かもしれない。

担任のところに行ってなぜ休んでいるかを聞くのが
教師の役目ではないか」
 
さらに先生は

「あなたに『般若心経』が説けなかったら、
私が見せてやる。着いてきなさい」。

そうおっしゃったかと思うや、もう歩き出されていました。
店の裏の道をどんどん歩きながら、しばらく経ったところで、

「あのな、山田悦子は腎臓を悪くして
 この先の病院に入院しているんだ。これから見舞いだ」。
 
彼女の部屋は2階の奥まったところにありました。
小林先生は病室に入ると、笑顔で挨拶を交わし
静かに話し始められました。

「えっちゃんな。きょう酒井先生が君の教室で
 授業中に歌を歌っていた。
 俺は隣の教室で聞いていたんだけど、
 酒井先生はえっちゃんがどんな病気で
 入院しているか知らなかったそうだ。

 俺が酒井先生に頼んでその歌を歌ってもらうからな。
 よーく聞いていろや」
 
私が歌ったのは、その頃農家を励ますために
流れていた田園ソングでした。

2番くらいから山田は布団を引っ被って泣いていました。
声は出さなくても肩が震えているからそれと分かるのです。
3番まで歌い終わると
「ありがとうございました」と小さな声がしました。

「よかったな、えっちゃん。
 これであと1週間もすると治って退院できるよ。
 じゃあな」

仏教で大事なのは理屈ではない。
そう言って先生は部屋を出られました。
病院を出て別れ際に小林先生が
「酒井先生」と声を掛けられました。

また雷かと思って「はい」と答えると、
先生は大きな両手で私の手をしっかり握り、
大きく揺さぶられました。

そして満面の笑顔でおっしゃったのです。

「これが『般若心経』だよ。
 覚えておきなさい。じゃあな」

私は最初小林先生がおっしゃった意味が
分かりませんでした。しかし、ある時、ふと

「仏教で大切なのは理屈ではなく実践なのではないか」

「いまできることを精いっぱいやることが
 人生で大切ではないのか」

と思ったのです。

それから私は『般若心経』に関する本を取り寄せ、
300冊以上貪るように読みました。

驚くことに、小林先生の教えにすべて帰着していました。
理屈ではなく歩み続けることこそがその神髄だったのです。

ちなみに、山田悦子は奇跡的な回復を遂げ、
先生の言葉どおり1週間後に無事退院しました。
私には愛語の力を知る忘れられない思い出の1つです。

2020.07.07

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