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ヒトの心は約10年の生理的早産 生物学的な見地から人間教育のあり方を研究してこられた 九州大学名誉教授の井口潔先生がお亡くなりになりました。 享年99でした。 (井口) 人間の赤ん坊は、 「類人猿の体に巨大脳をつけた生物(ヒト)である」 というのが私の考えです。 その脳のニューロン回路は3歳頃までに大人の80%くらい、 10歳頃までにほぼ大人の状態に近づくのですが、 その時にヒトから人間になるわけです。 体の仕組みは生まれた時から大人とほとんど同じなのに、 心は約10年間、大人から教育を受けて 人間になるようつくられているんですね。 私は12年前、そのことにようやく気づいたのですが、 このことを「ヒトの心は約10年の生理的早産」 と言っています。 (白駒) 生まれてから10年間の教育が、いかに大事かが分かります。 (井口) 実はその秘密をパッと把握していたのが 江戸時代の伝統教育なんです。 子供たちは6歳から藩校や寺子屋に通い、 「意味は分からなくてもいい。いまに分かる」 という師匠の指導のもとで、 『小学』や『論語』『大学』といった 優れた古典を繰り返し繰り返し素読しました。 まさに読書尚友で、古人の教えを しっかりと体に浸透させていったんですね。 これは医学的には「パターン認識」と言われるものです。 幼年期に教えられた道徳的な教えは、 このパターン認識によって感性脳(魂)に記憶され、 その人の人格形成に影響を与えていきます。 青年期になって道徳教育を始めても 論理的に知性脳に認識されるばかりで、 処世術で終わってしまうことが多いんです。 理由はどうあれ、10歳までに善悪や正邪の区別、 人間として恥ずかしいことなど、 人間としてあるべき姿を躾ける。 そのことで自己抑制力が身についていく。 先人たちは図らずもそのことが分かっていたのだと思います。 (白駒) そういえば、井口先生からは素読と音読とは違うんだ、 素読とは、学校の教科書を音読するのとは違って 古典の名文であることが大切なんだ、 と教えていただいたことがあります。 教材そのものが道徳的学びとなっている名文を、 師匠の声に続いて大きな声を出して読むことで 聴覚も視覚も五感がフル稼働するわけですから、 感性を育む上で素読はとても有効な方法ではないかという 先生のお考えに、私も全く同感です。 (井口) いわゆる「ゆとり教育」の趣旨は詰め込み主義をやめて、 子供が自ら学ぶ能動的学習を目指したものです。 しかし、幼少期の子供たちの脳は そのような構造にはなっていません。 論理的思考ができるのは10歳から15歳にかけてであり、 幼い子供たちに学習することの意味を 十分に考えさせるといったこと自体が ナンセンスだと言うべきでしょう。 |
2021.09.07 |
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