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      次代に輝く住まいを創る

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一語履歴WORD vol.449

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二十代をどう生きるか 450aあの時の苦しさ 450b人生に絶望なし
一語履歴 vol.449
市井の剣道
一語履歴 vol.448
乃木希典 448a安岡正篤先生の言葉
一語履歴 vol.447
観相学 447a品質本位お客様本位
一語履歴 vol.446
本心をありのままに 446a正々堂々 446b成功さえも“試練”である
一語履歴 vol.445
美点凝視 445a意志あるところ道はひらく 445b強いチームには
一語履歴 vol.444
自ら学び... 444a雨の日には雨の中を... 444b嬉しい、楽しい...
一語履歴 vol.443
か・き・く・け・こ 443a正射必中 443b病気を予防する...
一語履歴 vol.442
生き様は選べる 442a自分の最高価値観に 442b人間は自分が思うほど
一語履歴 vol.441
捨てて捨てて捨てる  441a幾世代にわたる 441b平成駆け込み寺
市井の剣道
         一川 一(剣道教士八段)

中学時代に剣の道に分け入り、
気がつけば早半世紀以上が経ちます。

修練を重ねるほどにこの道の奥深さ、
険しさを痛感するいま、
私の大切な拠り所となっているのが、
父の遺してくれた教えです。

範士八段、当代一流の剣道家にして
野田派二天一流第十七代でもあった父は、
終生求道の歩みを止めることなく、
その人生を通じて得た様々な学び、
悟りを膨大な紙片に書き遺しました。

「剣道は、元来、相殺傷する技術を学ぶので、
 残忍殺伐な道のように思われるむきもあるが、
 決してそのようなものではなく、
 あくまで教育的、道徳的な体育であり、
 精神修養法である」

「剣道で、勝ちさえすればよいという試合や、
 それを目的とした稽古をしていたのでは
 決して本物にはなれない。

 目先の勝敗にとらわれず、
 基本に忠実な正しい稽古を地道に積み重ねる。
 稽古の本旨はここにあり、それが大成への大道である」

最近の剣道は、父の説く「大成への大道」から外れ、
勝ち負けにばかり目を向けがちなことが気掛かりです。

大会などで華々しく活躍するのはごく一部の人であり、
大半はそうした華やかな場とは
あまり縁のないところで黙々と修業に励む
“市井”の剣道家です。

では、試合という目標のない剣道家たちが
目指すべきものはなんでしょうか。

私は剣の五徳、
即ち正義、廉恥、勇武、礼節、謙譲だと考えます。

もちろんこれは、大会に出場する人も
目指すべき普遍的な目標です。

父の生前、こんな諭しを受けました。

「お前は道場の門をくぐる時、
 『よし、やるぞ』と両刀手挟んで入ってくるが、
 それは逆だ。日常こそが本当の真剣勝負の場であり、
 道場から出て行く時にこそ気を引き締めなければならない」

確かに道場の中は、防具を着け、
指導者の下で技術を修める場にすぎません。
剣道家としての真価が問われるのは
まさに日常の場なのです。

同じく剣道を学んでいた兄は、
大学時代に九州チャンピオンになるほどの腕前でしたが、
就職後は竹刀を握る機会もなく、
職場での苦しい胸中を父に打ち明けていたのを
側で聞いたことがあります。

父は兄に

「お前は剣道を学んできたのだろう」

とたしなめ、こう諭しました。

「剣道の技量を伸ばすには、
 厳しい先生にかからなければならない。

 職場も一緒だ。

 厳しい上司に打たれても、打たれても、
『お願いします』と真摯に向かい続けなさい」

自分の弱さを隠すことなく、真剣に打たれること。
打たれる度に反省し出直すこと。
兄は父のアドバイスを心に努力を重ね、
その後営業でトップの成績を収めました。

いくら剣道の修練を積んでも、
それで生計を立てていくわけではありません。
大切なことは、道場で学んだ業を
一般社会で実行していくこと。
修業から修行へと昇華していくことです。

剣道の稽古は自分一人ではできません。

相手があって初めて成り立ちます。

そして相手は打ち負かす敵ではなく、
自分を育ててくれる師なのです。

剣道が礼に始まり礼に終わるのは、
きょうはいい稽古をさせていただきました、
おかげで成長できました、
と相手があって自分があることを自覚し、
敬意と感謝の心で向き合うことを説いているのです。

ゆえに私は、中学生と稽古する時も
七段、八段の高段者と竹刀を合わせるのと
同じ真剣さで向き合います。

剣道で最も難しい試験は八段といわれています。

千人受けて七人くらいしか通らない難関であり、
結果の思わしくなかった人からはしばしば
「相手が悪かった」といった愚痴を
耳にすることがあります。

しかし本当は、その相手をひっくるめて自分なのです。

相手と自分を切り離して考えるのではなく、
相手と和合し、ともに向上する気持ちで
向き合うことが大切です。

かくいう私も、八段の審査に通るまでには
七年の歳月を費やし、十四回目の挑戦で
ようやく本懐を遂げることができました。

その頃は既に父は亡く、
教えを請える人がいなかったこともあり、
途中幾度となく、自分の弱さや迷いの心が表に出てきて、
小手先の要領に走りそうになることがありました。

しかし私はその度に父の説いた
「大成への大道」を思い起こし、
これを貫いてゆこう、父に学んだ剣道を
ただひたすらに歩んで行こうと心新たに鍛錬を重ねました。

審査の通過にこだわる心は次第になくなり、
一年間の自分の修行結果を正々堂々
ここで表そうという境地に至った時、
八段を取得することができたのでした。

大きな木の塊を、剣道という鑿で
コツコツと彫り上げてゆく。
倦まず弛まず彫り上げてゆき、
立派な観音像に仕上げていくのが剣道といえます。

父の勧めでつけ始めた稽古帳には、
昨年までに道場で稽古をお願いした人の名が
延べ五万二千五十九人記され、
素振りの回数も百六十八万八千八百回に至りました。

修行に終わりはありません。
これからも稽古を通じてさらに人間を磨き、
道場での学びを少しでも
市井で役立ててまいりたいと念じております。

2020.02.25

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