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      次代に輝く住まいを創る

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どうにもならないことを忘れるのは幸福だ

住友生命の社長、会長を務められた故・新井正明さんは
1939年に起きたノモンハン事件で片足を切断されました。
絶望のどん底にあった新井さんを救ったのは
安岡正篤先生の著書『続経世瑣言(けいせいさげん』の一節でした。

(新井)
私は父が安岡正篤先生を尊敬していましたから、
先生の本を読むように、講義を聴くようにと、
随分勧められましたが、
まあ、当時若干、生意気であったし、
先生があまり偉すぎたものですから、近づかなかった。

ところが、ノモンハンで右脚をなくし、
陸軍病院へ入っている間、先生の著書を一所懸命に読みました。
その中から、今後どう生きていけばいいかというようなことを
徐々にですが、悟ることができた。
悟るというと、大げさですけれども……。

それで、退院して会社に戻ったわけですが、
兵隊に行く前は九か月しか会社におらなかったから、
戻っても仕事ができないのですね。
おまけに当然のことだけれども、行動が鈍い。
同僚に比べますと、昇給が遅い。ボーナスが少ない。
こういう時期が2、3年続きましたかな。

そういう中で、安岡先生の、『続経世瑣言』
の中にある、「忘(ぼう)の説」という箇所が目にとまったわけです。
「どうにもならないことを忘れるのは幸福だ」
 という諺ことわざがドイツにあるんですけれども、
 またカーライルが、「忘却は黒いページで、
 この上に記憶はその輝く文字を記して、そして読みやすくする。
 もしそれがことごとく光明であったら、何にも読めはしない」
ということを言っているわけですね。

先生はそれを受けて、
「我われの人生を輝く文字で記すためには確かに
忘却の黒いページを作るがよい。
いかに忘れるか、何を忘れるかの修養は非常に好ましいものである」
こう言われているわけです。
これだなと思った。

過去のどうにもならんことを忘れなければならない。
召集令状さえ来なけりゃよかった。
来ても即日帰郷になればよかった。
戦争に行っても弾に当たらなけりゃよかった……。
こういう過ぎてしまったことをいろいろ考えてみたって、
実際はどうにもならんわけですね。
いくら、言っても元へ返らない。

そうなるとそれを忘れ去って、今日ただいまから
将来を切り開いていかなきゃならない
という気持ちに到達したわけです。
だけど、時にはやはり、
あの時はあれがなきゃよかったということもあります。
ありますが、いまから考えると、
そういう体になったのは一つの宿命である、と。

安岡先生はよく運命というのは
自分で切り開いていけるけれども、
宿命というものがあると。私はそういう宿命を負った。
そしたら、これからの自分の運命は
どう開いていったらいいだろうかということです。
だから、安岡先生にはいろいろ教えられたけれど、
この教えが、今日まで、一番深く、
私の根本にあるわけですね。

2021.02.18

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